2026-08-11

「出ている」と「使われている」は、別のこと ── ケトン体を、どう確かめるか

火曜モーニング会

🥥 3行まとめ

先週の続きです。脳には二本目の送電線がある、という話をしたあと、関心はひとつ手前に戻りました。自分の二本目は、いま通電しているのか。それを、どうやって確かめればいいのか。ケトン体には三つの形があります。研究で点滴されたβ-ヒドロキシ酪酸、尿の試験紙が拾うアセト酢酸、そして息に出てくるアセトン。アセトンを数えるための呼気の測定器は、通販で二、三千円ほどで手に入ります。ただし、そこで分かるのは「出ているかどうか」までです。出ているから使われている、とは言えない。今回の研究がヒトの脳で「使われた量」を直接測ったことに意味があるのは、まさにここでした。そして話が反転します。試験紙が紫にならない人は、つくれていないのではなく、つくったぶんを使いきっているのかもしれない。出口で捕まえられるのは、余ったぶんだけだからです。色が薄いという一つの事実が、正反対の二つの意味を持ちうる。だとすれば、色にこだわるところから降りて、体のほうを見にいくことになります。

📖 今週のキーワード

「ケトン体の三つの形(three ketone bodies)」
→ β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン。ひとつの物質の名前ではなく、三つをまとめた呼び方です。測り方も出口も、それぞれ違います

「呼気アセトン(breath acetone)」
→ 三つのうちアセトンは息に出てきます。口の中から変わった匂いがする、と言われるのがこれ。数字にする測定器が市販されていて、一度買えば繰り返し使えます

「血液脳関門(blood-brain barrier/BBB)」
→ 脳を守るために、何でもは通さないようにしている関所のこと。ケトン体はここを通れる、というのが今回の話の土台になっています

「糖新生(gluconeogenesis)」
→ 糖が入ってこないときに、体が別の材料から糖をつくるはたらき。材料に筋肉のたんぱく質が回されることがあるため、痩せ気味の人には注意点になります

「インスリン誘発性低血糖(insulin-induced hypoglycemia)」
→ インスリンを打つことで起きる低血糖のこと。今回の研究が対象にした、まさにその状況です

🔍 ちょっと補足

出口で測る、ということについて。尿に出てくるケトン体は、体が使わなかったぶんです。つくる量が増えても、使う側が追いつけば、余りは出てこない。だから試験紙の色が薄いという一つの事実は、正反対の二つの意味を持ちえます。まだつくれていないのか、つくったぶんを使いきっているのか。色だけでは、どちらとも決まりません。いつ測ったのか、どのくらい続けてきたのか。そこと並べて、はじめて読めるようになります。呼気の測定器も同じで、分かるのは出ているところまでです。

移行期の工夫の話も出ました。糖質中心から脂質中心へ切り替わっていく時期に、ふらついたり、力が入らなくなったりすることがあります。水をしっかり摂ること、塩をなめること ── そうした手当てをしながら通り抜けた、という経験が共有されました。うまくいかない時期があること自体は、珍しいことではありません。

そしてもうひとつ。一人で決めない、ということです。同じことをやっている人が何人もいて、その記録が集まってくると、そこから方向性が見えてきます。一人分は体験ですが、何人分かが集まると、それは私たちの手がかりになります。

✅ 今週のチャレンジ

今週は「測る」と「感じる」を、一度並べてみてください。

1. 手元に試験紙や測定器があれば、一度だけ測ってみる。ただし、色や数字を見る前に、その日の体の調子を先に言葉にしておくこと。順番を逆にすると、数字のほうに引っぱられます

2. 数字が出ない人は、体感のほうを三つ書き出してみる。寝起き、午後の集中、疲れの残り方。比べる相手は、先月の自分です

3. 誰かに説明する機会があったら、「分かっていること」と「まだ分かっていないこと」を、意識して分けて話してみる。今週いちばん難しくて、いちばん大事だと確認された練習です

気づいたことがあれば、ぜひチャットで教えてください。一人の記録は体験ですが、何人もの記録が集まると、それは私たちの事実になります。

#火曜モーニング会

📎 今日の話題のきっかけとなった記事

先週に続いて、同じ記事をもう一週かけて読みました。2026年7月にDiabetes誌に載った研究で、二段構えになっています。前半は、磁気共鳴分光法を使って、点滴で入れたケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)が脳の代謝にどれだけ寄与するかを、ヒトで初めて直接測ったパート。後半は、低血糖を繰り返し経験している1型糖尿病の参加者を対象に、MCTを食事に加える期間と、カロリーを揃えた標準食の期間を無作為に割り付けて比べた介入パートです。MCTを摂っていた期間のほうがワーキングメモリの成績も脳の局所的な活動も高く、いっぽう血糖を引き上げようとするホルモンの応答には差がありませんでした。先週は「脳には二本目の送電線がある」という絵のところで話が動きました。今週は、その二本目が自分の中で通電しているかを、どう確かめるかというところへ話が進んでいます。

脳には、二本目の送電線がある ── 血糖が落ちた局面で、ケトン体が働きを支えたという報告

この日のスピーカーの体験談など
続きは認定ココナッツマイスターの方にお届けしています。

📎 今日の話題のきっかけとなった論文: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42384016/